経済学はインセンティブとリスクと因果関係の学問

以下の二冊を簡単にまとめます。経済学の目的意識と統計学のパワーを感じ取ることができました。

子どもの最貧国・日本 (光文社新書)

子どもの最貧国・日本 (光文社新書)

経済学はインセンティブとリスクを考える

『経済学的思考のセンス』で大竹さんは、経済学とはインセンティブとリスクのバランスを考える学問であると説明します。富を生み出すのきっかけとしてまず思い浮かぶのが競争です。強いものが得をするなら、みんながんばってたくさん成果が上がります。しかしそれでみんながしあわせになるとは限りません。成功には運も絡むからです。ですから運が悪かったひとを助ける仕組みが必要です。しかし助けてあげると怠けるひともいます。だからバランスが難しいのです。
『子どもの最貧国・日本』で山野さんは、自己責任論・人的資本論が「資本主義の完全性」と「機会の平等」を仮定していると批判します。すなわち、みんなが平等に情報入手し、競争し、市場に参加できるという仮定、また、たとえば事業を起こしたいときに必要なお金をすぐに借りられるの機会があるという仮定は非現実的であるため、貧困を自己責任だけで片づけることはできません。この問題に対する社会保障を考えることはまさにリスクを考える経済学だと思いました。

因果関係がインセンティブとリスクの仕組みをつくる

『経済学的思考のセンス』では「背が高い男性は運動神経がいいか」などの身近な疑問を統計で解明していきます。『子どもの最貧国・日本』でも、貧困と学力の関係などを分析しています。そのどれもが因果関係の追求です。因果関係というのは統計学にとって厄介なものだと思うのですが、たくさんのデータを巧妙に分析することでなんとか因果関係をみちびこうとする姿勢が感じられます。
因果関係の追求というのがインセンティブとリスクの仕組みを考えるうえでとても重要だと気づきました。たとえば消費を拡大するために税金を安くするというインセンティブが成功するかは、税金と消費の因果関係にかかっています。たぶん経済学の古典的な理論ではいくつかの因果関係が主張されているのでしょう。これから経済のあり方が変わっていくのなら、新しい因果関係をも明らかにしていかなければなりません。
この姿勢はあらゆる問題解決にも通じるところがあります。問題が何か、またその対策を考えるうえで、問題の原因を明らかにすることは重要です。もちろん、あらゆる問題にデータがそろっているはずはないので、経験や勘に頼らざるをえないこともあります。そのなかでも原因と結果の関係を追求することはできます。ロジカルシンキングでいう"Why so?", "So what?"ですね。