わかりやすさより大事なこと(木村浩『情報デザイン入門』)

木村浩『情報デザイン入門』

情報デザイン入門 (ちくま新書)

情報デザイン入門 (ちくま新書)

前半ではメディアの歴史をわかりやすく解説しています。技術的な背景を踏まえて説明されているので、伝記のように楽しく読めます。発明にとって科学はすごく重要なんですね。たとえばマクスウェルがいなければ無線通信なんてできなかったわけです。
後半では文章やウェブサイトづくりにおける心得を紹介しています。文章術やウェブユーザビリティなど。詳しく知りたいのであれば別書に当たる必要がありますが、入門としては手頃です。
史実とデータに基づいて書かれており(2002年の著作ですが古くささは感じません)、初心者にもわかりやすいので、まさに『情報デザイン入門』というタイトルにふさわしい新書です。

わかりやすさより大事なこと

木村さんは情報デザインの条件として以下の点を述べています。

木村浩『情報デザイン入門』p.131 (1) 間違いを引き起こさないこと、ミスを誘発しないこと
(2) 理解しやすいこと、操作しやすいこと
(3) 美しいこと、調和していること

何よりも誤解を受けないことを強調しているのが興味深いです。わかりやすいデザインが大事というのは当然ですが、わかりやすさはミスの少なさと一致しません。木村さんは「わかりやすいけど間違いやすい」というデザインに対する警告を発しています。
たとえば細い路地を省略した地図は一見わかりやすいかもしれませんが、間違った道を選んで時間の無駄になるリスクがあります。難しいことを説明するときにたとえ話をすることもそうでしょう。「なんとなくわかる」ことはリスクでもあると気づきました。
どうしたらユーザと協力して情報システムをつくれるのかという問題にも関係します。モデリング言語が使われるのは、異なる仕事に取り組むひとが理解を共有するためでしょう。とくに大切なのは、システムをつくってほしいとつくってあげるひとが理解を共有することだと思います。つくってあげるひとは要件を整理できるようなモデルを書いてあげなければいけないし、つくってもらうひとは理解してあげなければいけません。なんとなくで済ませて見積もりをグラグラさせているのが現状なのでしょうか。
モデルの読み方は間違って当たり前、という意識をもつべきでしょう。描き方もそうです。この手の授業や研修を受けたひとならだいたい共感できるのではないでしょうか。したがってモデリングの間違われ方を考えるのが大事で、この問題に取り組む責任は、間違わせるほうにも、間違えるほうにもあると思います。
つくってあげるひとはお客様に「それ間違ってるよ」と言う勇気をもって、つくってもらうひとはよく考えて願いを叶えることができたらハッピーですね。僕の思いえがく理想として。ユーザといっしょにシステムを開発する道具のデザインと、その仕組みのデザインに興味があるわけです。