ARGフォーラムを聞いて読書術を思い出した

2009-07-27(Mon): 8月17日(月)第1回ARGフォーラム「この先にある本のかたち」(長尾真国会図書館長×金正勲・津田大介・橋本大也)への招待 - ACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG) - ブログ版
岡本真さん、登壇者のみなさま、興味深い議論をありがとうございました。

電子図書館のシステムって読書術なんじゃね、と思った

長尾先生が電子書籍などの技術によって知的生産を活性化するビジョンを示しました。キーワードやリンクづけ、目次の階層構造の分析によって章やパラグラフなどの細かい粒度で検索できるようになります。必要な情報を取り出し、それらを再編集するという方法で新しい知識を生み出せます。実際にこれは学問の世界で当たり前のようにおこなわれています。
長尾先生のお話はシステムの設計というよりも読書の方法論を示しているように感じました。
『本を読む本』(asin:4061592998)で示されている読書の四段階を参照します。たとえばキーワードを抜き出すという簡単な処理は、最初のレベル「初級読書」(文を理解すること)に当たります。第二レベル「点検読書」は、その本に「何が書かれているか」を理解することです。本文だけでなく索引や目次などに目を通して本のメッセージがどのような構造で成り立っているかを理解します。一冊の「本」中心で考えるのは長尾先生の主張とは異なりますが、通じるところも多いです。
ここまでは検索や再編集の前段階として、本のもつ情報を整理してシステムに載せるための方法です。たぶん、システムにできるのはこの情報を効果的に提示するくらいでしょう。
新しい知識を生み出すには、本の中身を理解し自分のもつメッセージと結びつけなければなりません。第三レベル「分析読書」(精読)、第四レベル「シントピカル読書」(本の比較による考察)はまさにそのための方法です。
電子図書館の活用は技術的にはおもしろい課題だと思うのですが、知的生産のあり方を本質的に変えるかには疑問を覚えます。新しい知識を生み出せるのは、結局システムができる前から自分なりの方法を身につけていたひとに限るような気がします。逆にいえば、読書とか知的生産のトレーニングを積んでおけば、システムを活用して生産性をぐんぐん上げることができるのかもしれません。

著者9割のモデルは利益じゃなくて創作欲のためにあるのでは、と思った

著者が9割儲けるビジネスモデルについて議論が盛り上がりました。著者が編集や宣伝までいろいろできるのならそういうふうに儲けられるね、という感じでした。すごく難しそうです。ファンとのコミュニティをつくるのが大事というのは納得できますが、津田さんのFollowerだってせいぜい1万ちょっとです。実際にビジネスにできるのはよほどの人気者でしょう。
同人誌即売会を思い浮かべたひとは多いと思います。出版社がなくても情報発信はできる。そういうひとたちは、たぶん、やりたいからやっていて、利益を追求している(できる)ひとはごく一部でしょう。著者が自分でいろんな仕事をまかなうモデルというのは、利益のためっていうより、情報発信にかかるコストまたは敷居の高さを減らすことのほうが主な目的だと思います。そういうやり方があるのは、すてきなことですねえ。
利益の9割が著者にいくようなモデルで儲けるのは逆にたいへんそうです。そういう意味で、著者と出版社で50:50の関係を築きたい、あるいは著者と出版社との関係を透明にすべきだ、という議論には納得しました。



2009-08-17 - Twitter log / kiwofusi - はてなグループ::ついったー部