『学際研究』読書メモ(1):学際研究の定義

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学際研究―プロセスと理論―

学際研究―プロセスと理論―

学際研究の意味

専門分野。学際研究では専門分野(○○学)が基礎になる。専門分野には固有のテーマと方法に関する知、および研究者コミュニティがある。代表的な専門分野:世界システムを記述・説明する自然科学、人間世界を説明・デザインする社会科学、人間を表現・解釈する人文学。また芸術や音楽などのアート、医学や工学などの応用分野がある。
統合。一般に複数の専門分野が相互に関わっていれば学際研究であるが、本書ではそれに加えて複数の知見を統合することが必須だと考える。学際研究とは複数の専門分野の知見を利用・統合して、より包括的な理解を得るための理論とプロセスに基づいた研究である。
研究。学際研究は(伝統的な専門分野みたいな)「○○学」というより「○○研究」(studies)とよばれる。研究には、いまある知の大系に対する挑戦という意味合いがある。いまの知の大系ではわからないこと、できないことを可能にするのが研究だ。だから学際研究は研究だ。
際。学際は専門分野のinter。interは複数のものがかかわったりつながったりすること。そのつながりは論争スペースになる。

学際研究の定義

なぜ定義するのか。学際分野を深化する基盤になる。成果を評価できるようになる。制度化されコミュニケーションが活発になる。学生の士気が上がる。はじめの議論をはっきりさせておくほど研究は進めやすくなるし学生の理解も進む。また学生が面接官とかに自分のやってきたことをしゃべりやすくなる。
定義。研究者による5つの定義を踏まえてこう定義する。「学際研究とは、疑問に答え、課題を解決し、単一の専門分野で適切に扱うには広範すぎるもしくは複雑すぎるテーマを扱うプロセスである。より包括的な理解の構築のために知見を統合するという目標を持ち、学際研究は専門分野を利用する。」(p.14)。これはwhatの定義。howの定義もこれから述べていく。
学際研究には統合が重要なので、いろんな知見を寄せ集めただけの研究(多専門研究や分野横断研究)とは違う。
学際性には、実用主義的に社会の要求に答える道具的学際性と、価値と目的を議論して知の構造を変換する批評的学際性がある。

比喩

学際にはいろんな比喩が遣われる。境界横断:領域の重なりを捉えにくい。橋渡し:専門分野への批評を遠慮しがち。マップ化:土地という固いイメージが合わない。バイリンガル:(外国語とは違って)個々の専門分野に習熟しなくても学際研究はできる。このようにどの比喩にも不利なところはある。学際研究のイメージを捉えるにはいろんな比喩を組み合わせる必要がある。

感想

学生目線が考慮されていて、定義する意義に共感できた。新しい不確かなものを「これはこうです」と言い切るのは不安もあるが、デメリットよりもメリットのほうが大きいかもしれないと気づいた。
日本語だと「融合」という表現がよくある。これは「境界」の比喩のうえで、その境界をなくすようなイメージだが、ある面での「統合」は示しつつも、「専門分野を基礎とする」という要点を忘れてしまいそうな表現かもしれない。あとは「旗」という比喩もあるひとから聞いたことがある。「旗」は目立ってひとを引きつけるが、それだけでは基礎のない「分野横断研究」に陥るだろう。



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