『学際研究』読書メモ(2):学際性の推進力

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学際研究―プロセスと理論―

学際研究―プロセスと理論―

学際性の推進力

  1. 自然と社会の複雑さ:科学、社会的課題、職業などの領域で複雑さを扱うようになっている。自然科学では、宇宙の起源、気候、複雑系など。社会科学では、資源の持続、テロなど。
  2. 分野を超えた探求心:「雑種づくり」や「コンシリエンス」というような取り組みによって知識や学問を推進していこうと志す研究者がいる。
  3. 社会的課題の解決:環境、資源、交通、コミュニティなど。
  4. 革新的知見と生産的科学技術:革新的知見(新しい考え方を生み出すこと)には「成功的知性」が求められる。課題へのアイデアを出す創造的知性、アイデアの質を評価する分析的知性、アイデアを効果的に適用する実践的知性。これらの知性をバランスよく身につけることが重要(従来の学校教育は分析的知性に偏重)。

専門分野は特殊化が進むことによって視野が偏ったり新しいテーマを扱えなくなる。学際性の推進力は、この専門分野の特殊化の弱点を乗り越えるものである。

学際性の起源

アリストテレスによる古典的な知識の分割構造が長く続いた。12世紀:総合大学。18世紀:啓蒙運動・科学革命。20世紀アメリカ:一般教育運動、大学改革、統合的研究学会の結成。

学際性の前提

  • 学会の外にある現実は学際的アプローチを必要とする。
  • 専門分野は学際性の基礎である。反専門分野的見解は、知識の借用に見境がなくなってしまう。
  • 1つの専門分野だけでは複雑な問題に取り組めない。
    • 専門分野は部分的で偏りがある。
    • 例:社会科学では「力」がさまざまな意味で遣われている。ここから包括的な理解を得るには「認知的分散化」という、異なる視点を組み合わせて課題を解決する能力が必要となる。

学際性によって育まれる能力

  • 他者視点取得技術
  • 一致しない見解のあいだに共通基盤をみつける
  • 認知的進歩:統合的知識を利用して包括的な理解を得ること

学際研究者のもつ特性と技能

多様性の認識、複雑さのなかでのあいまいさと矛盾への耐性、協同の姿勢などの特性をもつ。
伝達能力、抽象思考、弁証法思考、創造性、全体的思考などの技能をもつ。

感想

知識を分割して一体的な知識がみえなくなってしまうことを反省する、アリストテレスの思慮深さに驚いた。
「学際性によって育まれる能力」は同時に「求められる能力」でもあるなあと思った。
学際分野は専門分野を基礎にするが、専門分野の熟練は必要としないということが前に書いてあって、じゃあその「基礎」というのはどういうことなのかという疑問がある。たとえば、専門分野を1つも知らない大学1年生が学際研究に取り組むことは可能なのか、どうすればよいのか。