論理を握り潰すと文芸の果汁が絞れる
- 作者: ダニエル・C・デネット,木島泰三
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2018/06/25
- メディア: 単行本
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文章がとてもいい。
著者が本書のテーマに興味をもった、認知科学や神経科学以前、計算機や人工知能の黎明期において、
私のような素人が、上述のすべての分野の教育を受けるには、これ以上ないほど適切なタイミングであった。しかもこういった科学者たちにとって、自分が現在取り組んでいる研究に適切な質問をしてくれる哲学者というのは、(君たちは原理的に不可能な計画に取り組んでいるのだ、なぜなら云々、とその理由を説明してくる哲学者とは違って)非常に新鮮で目新しい存在であったらしく、これらの分野の草分けの中でもとびきり優秀な指導的研究者たちが、私を招き入れ、内容豊富な個人指導を与え、真面目に受け入れるべき人物や文献に関する警告を与えてくれて、それでいて私の素朴な疑問に関しては、同じ分野の研究者や大学院生に対するよりもずっと寛大な態度を取り続けてくれたのであった。(p.11-12)
工学や技芸(に関心を置いたひとたちの取り組み)に対して向けられがちな「原理的に不可能なぜなら云々」系哲学、とくに引用部の前に書かれた「人工知能」のそれはよく思い出せるものであって、釘の刺し方がお洒落でにこにこする。
「真面目に受け入れるべき」ではない「人物や文献」がありえて、かつ、それ「に関する警告を与え」られないことの危うさとか、「同じ分野の研究者や大学院生に対する」「寛大」ではない「態度」のいやらしさなんかも簡単に想像できるものであって、皮肉ともとれる書き味が可笑しいね。
本書の論証は次の三つの想像力の酷使から成り立つ。すなわち、
ダーウィンとチューリングに従って私たちの世界のさかさまにし、
続いて進化を知的デザインへと進化させ、
最後に私たちの心を裏返しにする。
(p.24)
正気を疑うポエム。要約が過ぎてバグったのか。引用部の少し前に12の「(心地よい思考に対する)さまざまな障害物」が書かれており、ここへの布石といえるが、その12もすでに極まっているので、それを3にするとなおさら壊れるのは当然という好例。
人間の意識について
「それは極めがたい謎だ!」とか「神の御業だ!」とかいう「答え」を述べる人々
に対する
最近獲得された数々の思考道具からなる素晴らしい賜物を使い放題であるはずなのに、私たちはいまだにそれらをほとんど使っていない、という状況に鑑みれば、彼らの答えは著しく時期尚早な降伏宣言である。(p.29)
という批判は痛快ではあるけれど、こういった想像力を妨害する障害をクリアするのは簡単じゃないよと念押しするのはていねいな導入だと思う。
こういう分厚い本って内容量以上に文章が冗長であるがゆえにそうなっていることもままあると思うのだけれど、この本の文章の冗長さは自分が苦手ではない思索的な冗長さなのではないかと期待した。人間や人類について総括的に述べたベストセラーっていくつかありますが、そういう本って文章が叙述的に冗長な感じで(そもそも主題からして仕方ないとは思いますが)あまり好みではなくて読めなかったので、これみたいな本はありがてえです。
- 作者: ダニエル・C・デネット,木島泰三
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