論理を握り潰すと文芸の果汁が絞れる

心の進化を解明する ―バクテリアからバッハへ―

心の進化を解明する ―バクテリアからバッハへ―

文章がとてもいい。

著者が本書のテーマに興味をもった、認知科学神経科学以前、計算機や人工知能の黎明期において、

私のような素人が、上述のすべての分野の教育を受けるには、これ以上ないほど適切なタイミングであった。しかもこういった科学者たちにとって、自分が現在取り組んでいる研究に適切な質問をしてくれる哲学者というのは、(君たちは原理的に不可能な計画に取り組んでいるのだ、なぜなら云々、とその理由を説明してくる哲学者とは違って)非常に新鮮で目新しい存在であったらしく、これらの分野の草分けの中でもとびきり優秀な指導的研究者たちが、私を招き入れ、内容豊富な個人指導を与え、真面目に受け入れるべき人物や文献に関する警告を与えてくれて、それでいて私の素朴な疑問に関しては、同じ分野の研究者や大学院生に対するよりもずっと寛大な態度を取り続けてくれたのであった。(p.11-12)

工学や技芸(に関心を置いたひとたちの取り組み)に対して向けられがちな「原理的に不可能なぜなら云々」系哲学、とくに引用部の前に書かれた「人工知能」のそれはよく思い出せるものであって、釘の刺し方がお洒落でにこにこする。

「真面目に受け入れるべき」ではない「人物や文献」がありえて、かつ、それ「に関する警告を与え」られないことの危うさとか、「同じ分野の研究者や大学院生に対する」「寛大」ではない「態度」のいやらしさなんかも簡単に想像できるものであって、皮肉ともとれる書き味が可笑しいね。

本書の論証は次の三つの想像力の酷使から成り立つ。すなわち、

  ダーウィンチューリングに従って私たちの世界のさかさまにし、
  続いて進化を知的インテリジェントデザインへと進化させ、
  最後に私たちの心を裏返しにする。

(p.24)

正気を疑うポエム。要約が過ぎてバグったのか。引用部の少し前に12の「(心地よい思考に対する)さまざまな障害物」が書かれており、ここへの布石といえるが、その12もすでに極まっているので、それを3にするとなおさら壊れるのは当然という好例。

人間の意識について

「それは極めがたい謎だ!」とか「神の御業だ!」とかいう「答え」を述べる人々

に対する

最近獲得された数々の思考道具からなる素晴らしい賜物を使い放題であるはずなのに、私たちはいまだにそれらをほとんど使っていない、という状況に鑑みれば、彼らの答えは著しく時期尚早な降伏宣言である。(p.29)

という批判は痛快ではあるけれど、こういった想像力を妨害する障害をクリアするのは簡単じゃないよと念押しするのはていねいな導入だと思う。

こういう分厚い本って内容量以上に文章が冗長であるがゆえにそうなっていることもままあると思うのだけれど、この本の文章の冗長さは自分が苦手ではない思索的な冗長さなのではないかと期待した。人間や人類について総括的に述べたベストセラーっていくつかありますが、そういう本って文章が叙述的に冗長な感じで(そもそも主題からして仕方ないとは思いますが)あまり好みではなくて読めなかったので、これみたいな本はありがてえです。

心の進化を解明する ―バクテリアからバッハへ―

心の進化を解明する ―バクテリアからバッハへ―

2019年5月の読書メーター

5月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:3057
ナイス数:17

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読書メーター

鈴原るるは眉毛が前髪の後ろにあってかわいい

鈴原るる(すずはらるる)という動画配信者が魅力的なので書きます。

Twitterのヘッダ画像を事前に見ていた視聴者はこれを「やばい表情」だと思いました。本人はかわいいと思っています。

初配信です。声がかわいいです。

鈴原るるは「にじさんじ」という動画配信者グループに所属しています。にじさんじには個性的な配信者が多い(と期待されている)ことから、その個性が常軌を逸したさまを「にじさんじ」と形容することがあります。類義語として「清楚」があります。少なくとも初回配信においては、鈴原るるはその種の期待に沿うタイプの配信者ではないようです。

2回目の配信では匿名メッセージを視聴者から募りトークします。これは新人動画配信者の典型的な企画で、とくに驚くべきところがありません。


視聴者からの評価が確立されているゲームを実況プレイすることも、動画配信者の典型的な企画です。視聴者からの評価が確立されているゲームは2つに大別できると思います。配信者と視聴者間あるいは配信者同士でコミュニケーションできるゲームと、難しいゲームです。後者においては配信者の大仰なリアクションが期待されているものと思います。

3回目の配信がゲームの実況プレイであることも、だから何も意外ではないでしょう。

超魔界村」は作品自体も、実況プレイに選ぶタイトルとしても、けっしてマイナーではないと思います。しかし昨今の動画配信者の潮流においてはそう目にしないタイトルである気がします。さきほどの分類においては「難しいゲーム」に該当するものであり、実況プレイの題材としても相性は悪くないでしょう。というのは冷静にふりかえっていえることであって……超魔界村!?

初配信でわかるように、昨今の動画配信者グループでは配信に用いるツールや手法がある程度確立されており、そのグループに属する新人動画配信者も初回からコメントを画面上に表示させるなどこなれています。と思っていたら、初めての実況プレイ配信はぐちゃぐちゃなレイアウトで始まります。うれしい誤算です。

ここでちょっとおもしろいのが、選んだゲーム機がニンテンドークラシックミニ スーパーファミコンであること。ゲームプレイ中は4:3のゲーム画面の周りに壁紙のようなフレームが表示されます。そのためゲーム画面のトリミングをしなくてもコメント等を画面に配置することができ、このおかげでなんとか配信に支障のないレイアウトに調整できたのではないかと邪推します。

もうひとつ予測しがたい事態として、配信者自身の映像サイズを調整するときに縦横比を固定しないまま拡大・縮小し、からだが細くなったり太くなったりします。イラストにアニメーションを付与することで身体性を獲得しているタイプの動画配信者において、「痩せる」や「太る」という通常は想起しえない概念を見出すのは身体性の拡張に寄与します(?)。


ゲームのプレイスタイルはとても堅実です。難易度の高いゲームを楽しみながらプレイする高いレジリエンスを持っています。

同じステージで何度も失敗してなかなかクリアできない状況ではさすがに不満が溜まっていくようにもみえます。と思われた2:51:43の瞬間、「パァ」とお茶目な表情を見せて視聴者を和ませます。ここしかないというタイミングで空気を変える手腕に感心しました。もともとのお人柄に加えて、テクニカルに「ゲームを楽しむ」ことを通して視聴者を楽しませるエンターティナー適性を感じます。


鈴原るるの眉毛の大部分は前髪に隠れています。

一般に、人間の眉毛の前に前髪があれば、眉毛は前髪によって隠れます。一方、イラストで人間の顔を表現するときには眉毛が前髪の前にくっきりと描かれることがあります。その場合、眉毛が前髪の前にあるといえます。逆に、前髪の後ろにあるはずの眉毛がまったく視認できない場合は(あたりまえですが)眉毛が前髪の後ろにあるといえます。しかしイラストにおいても眉毛が前髪に透けて見えるように描かれることがあり、その透け感によっては「眉毛が前」といえるどうかはあいまいです。(余談ですが、同じにじさんじ所属の森中花咲(もりなかかざき)という配信者は子どもと大人の両方の身体性を保持しており、子どもの姿では眉毛が前髪の後ろに、大人の姿では眉毛が前髪の前にあります。さらに子どもの姿では眉に前髪がまったくかからないデコ出しの髪型があり、その場合は眉毛が前髪の前か後ろかという論点そのものが成り立ちません。ひとつのパーソナリティにこれほど多様な眉毛の前後性を内包している配信者は稀有でしょう)

その見方において鈴原るるは一見「眉毛が前髪の後ろにある」のですが、よく見ると前髪の後ろに眉が透けて見えます。髪の分け目のあたりを見るとわかりやすいですし、完全に前髪に覆われている右眉(配信画面に向かって左)もわずかに透けています。ここまで微細な透け感を出している絵柄は珍しい気がします。逆に、目にかかっている前髪の透け感はもう少しわかりやすく、毛先の軽さが自然に表現されているように感じます。

鈴原るるは眉毛が前髪の後ろにあってかわいい。