木村剛『投資戦略の発想法』

世間は思う以上に最適化されている。だから考えること、勉強することが大切なのだ。というのが端的な感想。だからこそ、そういった仕事に選任するコンサルタント=読み解き屋・見出し屋、という職業が成り立つのかもなあ、とも思った。
まなめさんが推薦しているので読んでみた。
装丁とか構成にかなり気が利いている。とても親しみやすい。何より目次をみてオープニングが40ページもあるのに気づき、これはとても良心的な本だと予感できた。このオープニングに加えて「準備編」「理論編」「戦略編」の大きく四章、計12節で構成されています。各節のはじめとおわりにまとめやマンガがあって飽きずに読めます。
とはいえ、「理論編」と「戦略編」については遠い世界に感じた。というのも、本書では、自分のもっている資産を完全に把握すること(バランスシート)、いざというときに生活を続けていけるだけの資金(生活防衛資金)を前提にしているからだ。奨学金をもらいながら生活して、保険のこととかはみんな親まかせの僕にしてみると、ダメダメである。正直にいえば、僕がこの本から得たことは、この本に書かれた内容のごく一部にも満たないだろう。
僕がふむふむと納得しながら楽しめたのは、せいぜい導入部分であるオープニングと「準備編」だ。たしかに人生や価値についてみなすことも大きい。けれど啓発以上のことが書かれているはずなのだ、この本は。僕はそこについて依然踏み込めないままだと自覚する。しかし、これだけは言える。
世間は思う以上に最適化されている。
専門的な領域における情報はぎりぎりまで乱雑さを抑えられ、限りなくスマートな姿で存在している。個人投資についていえば、マネー雑誌というカオスによって、すこしでも投資の高みに登りつめたような気になる。しかし必要な情報はみな、新聞に、そして身のまわりに用意されている。新聞は、読み解くことで意味を成す。身のまわりのひと、会社、仕事について、改めてみつめ、見出すことで価値が生まれる。
数字は目に見える。しかし意味はみえない。身のまわりの価値はなんとなくわかってる。でもちゃんとみつめているか。じゃあ人生は。将来は。
っていうこと。このまえの言葉を遣えば、洗練されたものごとは「他律するシステム」なのだ。意思というフィードバックによって機能する意味の回路。いや、こんへんはほんと言葉遊びなんですが……。
とにかく、みえていない意味を読み解くこと、潜っている価値を見出すことの大切さを痛感した。後者はこころがけ次第ともいえる。しかし限られた情報から多くの意味を解することには知識が不可欠だ。それを学ぶことをこれからこころがけたい。
さらにいえば、さまざまな方面に専門化が進んでいる現代において、ひとりのひとがなんでもかんでも読み解いて見出して考えておこなって、とがんばるのは非現実的だろう。実際、法律の読み解き屋さん、経営の見出し屋さんなどはすでに事業として成立している。そのあり方がさらに広がりをみせているのが現代ではないか。弁護士さんなんかはむかしからいるのだろうけど、このプロジェクトを成功させるためにこのシステムを導入しましょう、なんてアドバイスをする仕事はなんとも新鮮だ。でも、これからどんどんそういう(僕からみれば)奇妙な事業というのは増えていくと思う。
読み終えてから、まなめさんのレビューを見直しておどろいた。

経済が混乱しても資産を守るように運用するより、どんな時勢になっても稼ぐことのできる能力を身につけることを、私は選択しました。

こんな結論、そのへんの「投資の本」を読んで出てくる発想ではないよね。僕もいま僕のもてる僕なりの視点でこの本から着想を得た。それだけ豊かな知識、そして価値観に支えられているのがこの本だと思う。だれもが手に取るに堪える良書です。むしろ学生に読んでみてもらいたい。
雑感ですが。節約を投資の一種と取るのはすごくおもしろかった。節約という言葉の意味を見直した。あと、奨学金をもらっているのって、結局は借金をしてるってことだよね。「個人投資」の世界に踏み込むのはまだまだ先のことになりそうです……。