技術的に高度な情報システムはマネジメントに必要か

湯浦克彦『ITガバナンスの構造』

第1章では信頼される企業にするために重要な法律やフレームワークについて書いてある。第2章では企業にとってITがどのような価値をもつかを述べている。3,4章はシステムの設計など。むずいのでパスした。
経営に興味があるなら第1章、ITに興味があるなら第2章を読むとよい。3,4章はより具体的で、マネジメントやシステム設計の経験があるひとにはためになるかもしれない。
マネジメントにもフレームワークがあるんだなあ、って思った。実際にこういう感じで形式知というものが経営に取り入れられるのだろうか。

ITガバナンスの構造―SOX法とCSRが変える企業システム

ITガバナンスの構造―SOX法とCSRが変える企業システム

第2章で、企業におけるITの価値の移り変わりについて述べている部分がとてもおもしろかった。以下に要約しておく。文章や論理がおかしかったら自分のせいです、と一応いっておく。

企業におけるITの価値

『ITガバナンスの構造』p.135-139要約

ITは安く手に入るインフラとなったので企業の優位性を築くものではなくなり「モノとしてのIT」の地位は落ちた。しかしイノベーションの意図と目的を明らかにする「戦略としてのIT」は影響力を増した。ITの価値が製造の現場から構想作りのオフィスとコミュニケーションの場に移っている。

ソフトウェアは模倣されやすく差別化要素にならないが、そのぶん普及させやすい。不特定の大量の市場を、不特定の事業者の力を借りて創出できる。そのような市場で収益を求めるには新しい薄利のビジネスモデルが必要。また市場を維持するには企業の社会的な信用力が必要。

日本でITは費用対効果が低くビジネスへの貢献が不明。日本の職場における特徴、経験や人間関係や熱意などから労働価値と生産性を実現してきたからこそ、ITの導入効果が単純ではない。単純作業の合理化が有効な範囲が小さく、複雑な業務のレベルにはITシステムが達していない。

熟練した業務知識やコミュニケーションは局所最適または一時最適が限界。ITは情報交換の広さ、速さ、確実さがある。業務の知識やコミュニケーションの方法をIT化するには知識のデータ表現に優れたシステムを開発すべき。従来の習熟のレベルを超えた成果を得るには利用しやすさが大事。

知識をデータに表現する技術

ドラッカーはマネジメントにおいて情報システムはあまり重要でないという。システムの強みである情報共有をおこなうことで、マネジメントのおこなうべき仕事をより高度なものに集中させることができる。たしかに、これが効率的なコンピュータとの分業かもしれない。
じゃあ結局はビジネスの問題で、情報科学の基礎や高度な技術なんてどうでもいい、のか。いや、戦略的にITを導入することは、技術の限界を押し広げることだと思う。情報共有のためには知識をデータとして表現する必要がある。ひとの多様な知識を計算可能なかたちにすることなんて人工知能の使命だし、数学や論理学を基礎にしさらに工学的に応用することが不可欠だ。
つっても、知識やコミュニケーションをIT化するとは、実際にどういうもんなんだろうか。