山名沢湖『でりつま』

レイアウトがすごくおもしろい。次のページのプチ1コマがすごくかわいい。いや、伝わらねえ(笑)
なんというか、奥さんがたの仲良し具合もいいんだけど、やっぱりそれぞれの夫婦の関係性に萌える*1。これはどういう意図か計りかねるけど、夫たちの名前は一切出てこないのです。夫婦という状況も演出しつつ、奥さんがたに対するフォーカスをぼかさないための工夫かな? あと、ももえさんの夫が妻を「ももえさん」とよぶのはなんかいい。夫を「殿」づけでよぶ、こうの史代『長い道』の道さんと同じ魅力を感じる。
ももえ夫妻*2については、やっぱりこの微妙な関係性がおもしろい。ふたりがゆるやかな関係性の変化を想う一周年の結婚記念日のシーンはすごくていねいであたたかくえがかれている。こういうちょっとしたきもちの変化っていうのを表現するのは、やっぱり詩って感じだよなあ。あるいは「スケッチ」という言葉がよく合う。1ページ完結なのもこのテンポをうまくつくってるのかも。
あとは読書ですね。どうも山名沢湖さんのマンガからは「読書ばっかりしてもしょうがない」っていう読書観が感じられるんですよね*3。いや、ネガティブなわけじゃなくて、「読書を楽しむことってすばらしいね」という価値観の強い裏返し(謎)というか。というわけで、この作品でもいくつかある題材のひとつとして本があるわけです。そのゆるい扱い方がなんだかいいなあと。
ももえさんがかわいいのはしょうがないとして(こんなちっちゃい奥さんいるのかw)、やっぱり僕が好きなのは、たまよさん。自著が出ることを告げるときのしおらしい仕草に打ちのめされた。恥じらいと誇りのあいだというか。彼女はライターなのですが、ふと仕事を離れて自分のために小説を書くというシーンがすごくよかった。「文化の秋」という警句(?)によって生じるきもちの変化っていうのを、これもていねいにスケッチしている。ももえ夫妻の場合、それが読書になるわけで。なんにせよ、とてもゆるやかなの。
ごく軽ーくオタク向けのネタも仕込んであるので、そういう楽しみ方もできるし、そうじゃないひとも不快に思うほどではないはず。すごいお勧めしやすいマンガやと思う。
さきの「文化の秋」云々にも通じるけど、やはりこれは主婦というゆとりある生活をベースにして成り立つ空気だと思う。というわけで、専業主婦のももえさんが主人公になるっていうのは必然的だよなあ。いや、ニートになれってわけじゃなくて、限られてはいるけど、そういうゆとりはだれもがもてるはずのものだから、そういう時間やきもちを大切にしていきたいなと。

*1:もうちょっとうまい言い方はないものか……。

*2:日本語おかしいけど、ほかに書きようがないしなあ。

*3:レモネードBOOKS』はその点がかなり強調的です。これをはじめに読んだというのは、ちょっと順番がイマイチだったかもしれない。わたくしごと。