酔うはずはないが

短い文章を書きたい。ひとを動かす文章を書きたい。読むのは一瞬でいい。それで、ちょっと数秒、そのひとの生活に変化を与えられれば、それはとてもうれしいことだ。手をみて、と書いて、手をみてくれる。ただそれだけでいい。しかしそれが難しい。
簡単なことでいい。僕がすてきだと思った簡単なことを、簡単にやってくれれば。そのために、僕は具体的なことを書かなければならない。具体的なことは、とても簡単なことを書くために便利だ。しかし、それがすてきであることを伝えるために、僕はすこし抽象的なことを書かなければならない。
たとえば、肉じゃがをつくって、食べたら、抽象的だが、おいしかった。具体的には、水を入れずに酒で蒸すようにつくった。
僕の母親も肉じゃがをつくるが、汁でびたびたのやつだ。もちろんその汁をご飯にぶっかけるなどの楽しみかたもあり、きらいというわけではない。しかし汁気がなく上品に盛られた肉じゃがにも風情を感じる。だから僕は汁気のない下品な肉じゃがをつくって食った。
加塩の調理酒をどばどば使ってしまったため、ちょっとしょっぱくなった。もっと素直な日本酒を使ってみるのもいいかもしれない。気がつけば、合法的に酒を買える歳になっていた。酒を、買いたい。はじめて、そう思った。