岡本真『これからホームページをつくる研究者のために』

ARGの岡本真さん(@arg)の著書。本書で紹介されたサイトのリンク集が公開されています。サポートブログにも感想がたくさん寄せられています(一覧)。

この本を読むといいひと

  • 何かしら発信・表現したい思いがあるけれど、自分に公開できる情報なんてあったっけ?とためらうひと
    • 第1部 1章を読み、第2部をぱらぱらと眺めてみましょう。ふだん意識していないインプットに気づくきっかけになると思います。
  • 学問とか研究者に興味があって、かつ「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史」を読んじゃうようなひと
    • 附録:試論「研究者の個人ホームページの歴史」が非常に興味深いです。岡本さんにしか書けないサイト論です。
  • 授業なんて仕事でしかたなくやっている、わけではない、大学の先生
    • 第2部のとくに「理想編」がよいサンプルになると思います。読み手を考慮するという意味で、あらゆるサイト運営者の参考にもなります。

心から役に立つサイトをつくる

本書は「ひとりの人間にとって心から役立つものを作れたら、それはきっとほかの人が使っても役立つ、必ず役立つ」という二木麻里さんの主張を受け、自分のためにサイトをつくればよいと提案します。「他人の役に立つホームページをつくれない」なんて要らない悩みなのです。
メモ帳とか筆箱みたいに、身近な情報やツールをおいておける場所にすればよい、ということでしょう。本書は具体的な運営方法にはあえて言及していませんが、たとえばレンタルWikiソーシャルブックマークなどはそのための手頃な方法だと思います。
でも、そんな程度で役に立つといえるのか、とも感じました。心から役に立つサイトってなんでしょう。たとえば(たとえばね)、それがあるだけで就活しなくて済むようなサイト、って、心から役に立ちます。自己満足できるし、もしかすると自己実現につながります。ひとが、自分を評価したいとき、役に立ちます。
もちろんサイトなんてなんとなくで運営すればよいのですが、心から役立つサイトをつくろうなんて考えたことがなかったので、おもしろい視点を得ることができました。

公開できる情報なんてあったっけ?の処方箋(大学生用)

本書は研究者のために書かかれているので、それ以外のひとには馴染みのない情報が多いかもしれません。でも研究者が扱う情報ですから、大学生とはけっこう関係している気がします。大学生の観点から、公開できる情報の材料を探してみましょう。
なお、以下では情報を公開するにあたっての法的・倫理的なうんたらかんたらは無視しました。いざ公開するときは著作権とか担当教員の意向にご注意ください。*1
第2部 1章「講義資料を活用する」は大学生にもほぼそのまま参考になります。「シラバス」「レジュメ」「参考文献リスト」「講義ノート」「質問票」「試験問題」は、すべて学生の目に触れるものです。つまり、授業を通したあらゆるインプットはそのままアウトプットの材料になります。そして、ここに挙げられていないものとして「レポート」があります。授業やゼミの「発表資料」も使えます。
もちろん、これらをそのまま公開するのは難しいでしょう。授業の感想、おもしろかったところ、わからなかったところなどを日記として書くだけでも十分だと思います。そんなこと意味がない? このまえ下級生のブログをたまたま拝見したのですが、僕が一年前に受けた授業のまとめや感想が書かれていました。それが、とてもためになった(笑) お恥ずかしい限りです。
2章「研究資料を活用する」のなかでは「翻訳、抄訳、下訳」「ソフトウェア、スクリプト、テンプレート」「用語集、辞書」が大学生活を通して得られる学習成果ではないでしょうか。英語でしか読めない情報に触れたときは、日本で一番目の情報発信を手がけるチェンスかもしれません。
5章「ネットで執筆する」は学生にもそのまま参考になります。「日記、エッセイ、コラム」「クリッピング」「コメント、特集」「レビュー、批評」はだれにでも書けますし。その材料として興味のある人物の「エッセイ、コラム」「書評、論文評」「講演、発表」「報告書」「論文」「書籍」(4章「著作物を活用する」)を参照することもできます。
本書を読むと研究者の手がけるアウトプットの多様さに気づくことができますが、それはそのまま学生のインプットの多様さであることにも気づきます。自分の役に立つように、インプットをそのままアウトプットにしたってよいのです。
ここではまじめな情報ばかりですが、それ以外にもふだん意識していないインプットは見つかると思います。それをアウトプットに変えることで、あなたに心から役立つことを願います。ついでに、僕の役にも立ったらうれしいです。

*1:以下は、あくまで個人的な意見として。原則として「転載をしない」こと。個人的には「公開されている資料には言及(リンク・引用)してよい」と思う。こういった情報を扱うことで「自分やその周囲の身分が明らかになるおそれがある」ことには留意すべき(参考:補足:学生がはてなダイアリーを使うときに気をつけるべきこと - 発声練習)。