重層的ロールモデル:憧れ、指導者の内面化

アニメ「AKB0048」の話でも。
AKB0048」は13歳そこらの少女たちがアイドルを目指すお話だから、少女たちを指導・管理する大人たちが周りにいる。でも総支配人なんかはどこか子どもっぽさというか、冷静さを欠いて不安定にみえるときもある。総支配人はその前にアイドルだったから、アイドルとしての目線で、アイドルのときの思い入れで、物事に執着することがある。主人公たち、主人公の先輩たちといっしょの立場で、向こう側を追いかけている。専属カメラマンも、執心によってリスクを冒して身勝手な判断を下してしまう。その元にはやはりアイドルとしての目線がある。
けれどもそこに致命的な不安を感じない。彼女らアイドルにおいて、子どもは大人の指導によって成長すると期待するよしもない。大人に指導されるための子どもがいないのであれば、同様に子どもを指導するための大人もいない。
アイドルだった大人は、かつての仲間に執心している。そのきもちには、同等な仲間意識からはみ出る憧憬がある。これが子どもたちと共にする立場だ。いっしょなんだから、子どもたちと大人たちもまた仲間でありうる。大人が未熟だから、子どもが立派だから、ではない。
ある襲名メンバーが大人を助ける姿に、むしろ気になるほどにまったくの違和感がなかった。それが彼女の役割としてふさわしかったからだ。役割とはオリジナルメンバーだ。それを彼女がどれだけ大事にしているかは明らかだ。オリジナルメンバーという、役割の大人がいて、彼女もまただれかの、役割の大人になる。その典型が襲名メンバーと研究生の図式だろう。
しかし役割の階層は単純に線を引けるものではない。研究生と研究生のあいだにも、役割の大人は現れる。研究生とオリジナルメンバーのあいだにも飛躍する。単なる上から下への階層ではなくて、いくつかの次元が重なり合っている。

  • 襲名という次元:オリジナルメンバー、n代目襲名メンバー、襲名メンバー、研究生
  • 総選挙という次元:順位、選抜、非選抜
  • センターという次元:センターノヴァ、センター
  • アイドルという次元:元アイドル、アイドル、アイドルを目指す者

たとえば、あるオリジナルメンバーを伝統的に襲名している家系(という特殊な次元)において、その襲名メンバーは、先代襲名メンバーと総選挙で同じ順位になったことに意味を見出す。
とくに重大なのが「オリジナルメンバー」と「センターノヴァ」であるように感じる。何がセンターノヴァをセンターノヴァ足らしめるのか。それは圧倒的なオリジナルメンバー性、作中の言葉を借りるなら「魂の資質」であるように思う。ところが、センターノヴァを目指すある襲名メンバーは、明らかにその前のセンターノヴァである襲名メンバーのほうを意識している。僕は(リアルな)オリジナルメンバーに詳しくないのでわからないが、彼女は自分のオリジナルメンバー性をあまり意識していないようにみえる。だとしたら、センターと襲名は、別の軸として交わっているのだろう。
主人公を簡単に振り返って終わろう。彼女はある襲名メンバーを敬愛している。しかし特定のオリジナルメンバーへの思い入れはうかがい知れない。だから、彼女はその襲名メンバーの名前を受け継ぎたいのだろうとは結論できない。彼女は、襲名、総選挙、センターノヴァなどの劇的なシステムに違和感をもつことが多い。だから、襲名メンバー、先輩の研究生、同期の研究生との身近な関わりを通してアイドルへの思いを強めるのも自然だ。他方で、彼女はある先代の襲名メンバー、すなわち前センターノヴァと(スピリチュアルな領域で)関わることも多い。この飛躍を彼女がどのように受け取るか、という問題に触れられることが、彼女の主人公としての魅力に感じる。



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