桜庭一樹『君の歌は僕の歌──Girl's Guard』

ヤスダスズヒトの絵だからか、ちょっと『デュラララ!!』を連想した。とくにクライマックスのあたり(笑) はじめは、ふつうのラノベだなー、という印象。
詩ではじまる第五章がかなりの見物。ころころと移り変わる不安定なマリの心情がえがいていくことで、その後のベッドシーン(笑)がいっそう引き立っている。この場合、不安定なマリを支えるための役割というのが雪野にはあるのだけれど、雪野自身、雪野自心、とても不安定な状態で、ぐるぐるぐちゃぐちゃになるふたりのきもちが突き刺さってくるよう。

p.143
「マリのそういうモロいとこ、わたしはキライだな。あんたのこと“社会不適合者”って言うのは、そういうところ。わたしが“優等生“なのは、あんたより生きていくコツを知っているからだよ。」

こう言って雪野はマリを説教する、そしてマリは立ち直る、というほど単純な話ではない。読んでもらわないとわからないけれど、この辺のやりとりはだれがだれに何を言っているのかわかりにくい*1。その複雑さがそのまま(いってしまえば)「女の子たち」のこころを表現しているように思えた。*2
続く第六章からは格闘技ネタがうまく活きてきて迫力のある飽きない展開。同時に「心身」というテーマにもうまくつながってマリの内面に深みが出てくる。「生娘」っていう言葉はもちろん(?)比喩的な意味なんだろうけど、あまりに直接的な言い方なのでどきどきしてしまう。だって、それって、(浅くいえば)マリが「生娘」を自覚すること、というテーマをみちびいちゃうわけだから。そしてこの言葉が七菜子にも及ぶのは象徴的。
ちょっと言いっ放しになるけど、桜庭一樹のえがく「少女」というのはそれ自体に限らない含蓄があるから好きなのかも。べつに、桜庭一樹には限らないだろうけども。

*1:小説読みのひとはすんなり読めるのかも。ある種の文法だし

*2:桜庭一樹によくあると思うんですけど、女の子がふたりで「わーん」って泣いてる描写が好きなんですよね(笑)。『推定少女』にも『少女には向かない職業』にも『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』にもあった気がするけど、記憶があいまい。 それをもうちょっとじっくりとえがきだしたのがこの場面だと思う。