夏目祭子・監修『間違えやすい日本語辞典』(ダイソー)について

そもそも部屋がひどく散らかっているというのもあるし、新しい本棚を買いたいので、そのときのためにすこし部屋を片付けた。まだまだ先は長い。それにしてもさいきんは天気が芳しくない。家の中が水くさくなるよりはましだろ、と思って外に洗濯物を干してみたが、まったく乾いていなかったので取り込み、ドライをつけて扇風機を回した。
そんなことはどうでもいい。
掃除をしている過程においてダイソーの『間違えやすい日本語辞典』というものを見つけた。そういえばこんなものを買った。わりとよい代物だったと記憶している。その記憶も定か、じつに充実した内容でかつ平易で公正な語り口から言葉の正しい使い方を説くこの書籍は感心に値すると信じるにやぶさかではない。
詳しくは実際に見てほしい。最寄りのダイソーにお立ち寄りください。ちなみに僕の父親はダイソーの社員ではありません。そしてもし気に入ればの話ですが、ぜひに購入をお勧めします。買わなくてもかまいません。もし気に入らなければ、の話ですが。ちなみに僕の母親はダイソーの社員ではありません。
それにしても不思議である。どうしてこのような商品が105円(税込)で販売されることが成り立つのだろうか。たしかに、500円(税抜)で売られていても買う気にはならない。105円(税込)ですら、買うひとはまれだろう。需要という観点からいえば、この価格設定は妥当なものだといえる。
しかし明らかに安いのだ。買うか、買わないか、という問題は別にして、この書籍の内容は価格を遙かに上回っている。もちろん主観的な評価ではあるが。
この商品にかけられた手間について考えてみよう。もしかしたら、もとからあった情報の単なるコピペなのかもしれない。それなら商品として扱うのにも大したコストはかからない。しかし納得がいかない。全編に通じるていねいで好意的なこの語り口はひとの真心を経てのものと思われる。
この商品を販売することでダイソーに何かメリットがあるのだろうか? あるのなら、先の疑問はやわらぐことになる。直接的な利益は上がるのだろうか? 作成に関するコストはこのさい無視して、この紙の束を印刷して105円で販売することによる利益を考えてみよう。僕は出版や流通に明るくないので憶測に過ぎないのだが、どう考えてもわりのいい商売ではないだろう、これ。
では、この商品を店頭に置くことでなんらかの好影響、つまり宣伝効果やイメージの向上につながるのだろうか。たしかにちょっとしたハンドブックが店頭に並ぶというのは、知的な感じがして好印象がもてる。いろいろあるんだなあ、と購買意欲が刺激されるかもしれない。『間違えやすい日本語辞典』は、そういった意味をもつ「ミニ辞典シリーズ」の一欠片に過ぎないのだ、というのはなんとか腑に落ちる解釈である。
どちらにせ、この作品を単体で見たとき、どうみてもこれは割に合う商品ではない。あるいは、百均の商売のやり方に関する根本的な見落としがあるのかもしれない。憶測によるところは大きいが、やはり『間違えやすい日本語辞典』は非常に良心的な商品であると僕は思う。世の中、捨てたものではない。