講演メモ:「学は何処より来たりて何処へ向かうのか?」原島 博(元東大)

総合学術辞典フォーラムより。
まとめ:「総合学術辞典フォーラム」参加報告 - 反言子

「学は何処より来たりて何処へ向かうのか?」原島 博(元東大)

学問の歩みと今後のあり方についてご講演いただきました。未来を語れるのが若者だけではないということを痛感し、悔しさを感じるほどにエキサイティングな内容でした。

ダビンチコード→ダーウィン学?
自己紹介
 20代:情報理論→10Gイーサの世界標準2006。情報理論とその応用学会。
 30代:情報理論から新しい学問分野を。顔学会? 
  学の体系ってなんだ! 電気通信学会ソサエティ制の設計に関与
  いま:通信学会ハンドブック・知識ベース委員会委員長(→総合学術事典)
 40代:コミュニケーションの新しいパラダイムを提唱
  →ヒューマンコミュニケーション工学(←当時:技術用語じゃない!)、顔学会
 50代:学における文・理・芸の融合
  大学ダ・ヴィンチ論→情報学環
 60代:学のあり方そのもの
元ネタ:ポールゴーギャン「我々は何者か?」→どこからきた、どこへいく
 →学のダーウィン学(進化論)
学はどこからきた??? 科学の歴史
 科学者なのに科学の歴史、習わないよね(原島先生もそう。勉強したてで話したいw)
 14世紀:ラテン語のスケンティア(scientia:知)/信念・意見に対立
 近代科学:二つの革命
  17世紀:コペルニクス(16C)、デカルトニュートン
   自然哲学の方法論「実験的方法による実証的知識」(自然科学)
  19世紀:社会的な認知「科学者」という言葉の誕生
   専門化、職業化、科学教育、学会組織の整備「科学の制度化」(J.D.バナール)
   大学→象牙の塔フンボルトの改革)
 アカデミズム科学:同業者による学会結成(意見交換、専門誌、品質管理)
 ↓ 知的好奇心に基づく科学(curiosity driven)
 産業化科学
  20世紀後半:国家主導の巨大プロジェクト(軍事のための科学者集め)byブッシュ
  戦後:平和な時代も科学が大事よ! ブッシュ革命
  →missonに基づく科学
 科学のモード論:キボンズ現代社会と知の創造』
  モード1:科学者の好奇心による自己充足的・ボトムアップな研究
  モード2:国や産業から要請を受けたプロジェクト型・トップダウンな研究
   目的の社会的責任・情報開示・アカウンタビリティを負う
 日本の科学技術はどのように推進されてきたか???
  1980年代後半まで:産業振興を目的とした国家プロジェクト(モード2)
   中央研究室メインで大学の偉い先生がアドバイザーになるくらい(打倒IBM!)
    基礎研究の費用も研究者も企業が自前でやってた。大学は卒業生クレ。
   大学は科研費を使ったモード1
  1980年代後半
   ジャパンバッシング:基礎研究ただ乗り論(企業だから情報を隠す)
   バブル崩壊:企業の研究能力の弱体化→国!
    企業は製品開発への橋渡ししかできない
    →基礎研究は国が金だせ! 大学で成果を出せや! そして産業へ(ここ10年)
    こういうサイクルができあがった。つまり科学が産業になった。
  90年代以降
   国家主導の科学技術振興政策(だれさん?)
    「科学技術基本法・基本計画」「総合科学技術会議」など
    キーワード:競争的資金、任期、評価、産学官交流、ポスドク1万人
    大学の法人化(2004):競争的資金でやっていけ!
     「競争的資金獲得による研究請負機関」「教育も競争的資金獲得」の時代へ
これからどこへ向かうのか???
 原島「深刻な問題。このままでいいのか。考えなければ。若手のためにも」!!!
 クーンのパラダイム論:科学は連続でなく断続的に転換する(着実に進歩?NO)
  科学はあるパラダイムのもとで通常科学として遂行されるルーチンワーク(寿命)
  いい論文が1本出ると10人ph.Dが出る e.g.シャノン「情報理論パラダイム
  パラダイムに限界がきて新しいパラダイム
 競争的資金による研究とは?
  ルーティンワークを期待される(達成度の外部評価、短期5年以下、目標と競争)
  原島「近視眼的な経済の論理が学問にそのまま持ち込まれた」
 新しいパラダイムの研究をどう進めるか???
  学会をつくろう→モード1(鎖国型)(原島「楽しいから残したい」)
  大型研究費を獲得しよう(プロジェクト申請)→モード2
   請負・プロジェクト型、問題解決、輸入
 ほかにないのか!? (市民か???)
  モード3:開放型・ロングテール型(Linux型、ネットワーク型)
  学問2.0(笑) 知の共有、体系化、構造化が必要!(このとき、学会は?)
  メッセージ発信型・ビジョン型:シーズ&ニーズからウィル(意志)の科学へ
 長期的な展望をもった科学へ
  5年後を読むよりも100年後を読んだほうが簡単じゃない!?
  近代科学400年、アカデミズム科学150年、プロジェクト型科学50,60年
  考え方「500年後の歴史家がいまの科学をいかに記すか?」
   歴史の課題に応えているか? 歴史の審判に堪えるか?
 原島のシナリオ
  環境破壊、地球の時代の終わり、宇宙には何もない。情報も同じ。(笑)
  ・三大宗教(宗教を神とした時代)→中世→大陸の破壊
  ・ルネッサンス・近代合理主義(科学が神になった)→近代→地球の破壊
  ・絶対なる神の改革?→これから→文明の体質改善が必要!
 近代科学のシナリオ
  心身二元論:「科学」と芸術の分離、数学的方法論:「理系」と文系を分離
  これらを融合する新たなパラダイムを!
  知の学問として、科学を発展 but 知ることはいいことなのか!?
   e.g.ヒトゲノム。知ると利用したくなる欲望。バランスとれるの?
  知る、探求型科学から、創る、想像型科学:文化創造学としての科学
科学技術って?
 産業革命のころは技術だけだった。近代になって科学技術という領域ができた。
 技術は本来文化創造だ。

講演メモ:「オントロジーに基づく学術辞典の設計」橋田 浩一(産総研)

総合学術辞典フォーラムより。
まとめ:「総合学術辞典フォーラム」参加報告 - 反言子

オントロジーに基づく学術辞典の設計」橋田 浩一(産総研)

認知科学事典プロジェクトの現状報告という感じでした。

創造学術事典:認知科学会25周年と情報処理学会50周年、オントロジーで構造化!
総合学術オントロジー:学術的オントロジーを連携させる(辞典をハブに)
 サービスも連携させる。これまでのサービスについて議論。社会との相互作用を支援。
 15クラスくらいの簡単なオントロジー
オントロジー設計の注意点
 平文をむりやり構造化する
 同義語とか参照(だれだれが述べている)とかの項目がある
 定義を書けるものには書く
AとBの関係:上位概念・同義・対義、機能、目的、部分、性質、扱うなど
即席のぐるぐる回るアニメーションw

講演メモ:「百科事典・専門辞典を基点とする情報アクセス」高野 明彦(NII)

総合学術辞典フォーラムより。
まとめ:「総合学術辞典フォーラム」参加報告 - 反言子

「百科事典・専門辞典を基点とする情報アクセス」高野 明彦(NII)

辞典に関するさまざまなサービスをご紹介いただけました。

長尾真先生がまとめた。ディレクトリがあるよ。
 分類の木→わかった気にさせる、勉強したことを自分なりに整理してもっておける
 立花隆:僕はこれで情報が全部わかりましたwww
岩波の辞典を検索できる
 「岩波のジュニア辞典という大人が読むとちょうどいい辞典」www
リンクだらけにならないように配慮(e.g.初出のみ)。
何に対してリンクできるかを動的に変更したい。
類似しているものを動的に見つける(記事の距離から)→長尾よりいいw
長尾辞典→クイック(索引)が辞典の1/3くらい(紙で)。前後のn-gram
言語処理屋以外にも索引の威力を知らしめた。
宣伝:「想」古本のサービスが開始された。大学図書館の蔵書+新刊書店の在庫。

講演メモ:「Web時代の学術情報流通の方向性を考える」武田 英明(NII)

総合学術辞典フォーラムより。
まとめ:「総合学術辞典フォーラム」参加報告 - 反言子

「Web時代の学術情報流通の方向性を考える」武田 英明(NII)

NIIのサービスについて。

先生:学術情報流通の担い手&セマンティックWeb研究者
学術情報流通のセマンティックレイヤー構築
Web時代の情報流通ってなに?
 ネット以前:出発→以後:だれでも参加できる、情報の流し手の台頭(Google
 マスメディアとユーザの相対化(やってること変わらない)しかし流通は別
 集める→創る→公開するというプロセス
 古典的学術情報モデル
 ↓ 書いて、査読して、流通。もとからループできている。当然!
 量への対応
  細分化、電子出版、Web2.0化(オーソリティの相対化→中身が大事ってこと?)
 新しい流通への対応
  検索(縦に分かれたけど横につながる)、メタデータ流通(書誌、図面)、
  オープン化・システム連携
  e.g.Googleスカラー(武田先生が紹介するとよくないw)
 メタデータ:データの「意味」の記述(どういう「意味」?)→セマンティックWeb
メタデータの問題
 何を記述するか:記事、概念、ひと
 どう構造化するか:オントロジー、社会ネットワーク(ひとの)
 なにが同一か:アイデンティティ管理、
  オントロジーマッチング(異なるオントロジーの対応関係を発見・維持する)
 どうやって記述するか(言語):RDFS,OWL
 どうやって活用するか:公開して
NIIの学術情報サービス
 CiNii:APIあるねー。いままでは拒否w
  Googleとも連携。自分たちだけでは対応しきれない。公開したら倍にw
  インフラの整備を進めている。月間1億PVに堪えるインフラを。
 研究者リゾルバ:リンクを集める。各大学のDBと連携
 KAKEN:論文をID管理。揺らぎを含めた文献リンク
 情報学の広場(仮)プロジェクト
  情報学研究に関する学術コンテンツの保存と公開を促進し、情報学研究の発展に寄与することを目標とする。学会と組んでやりたい。システム開発中。これから、マルチメディアコンテンツを提供する&オントロジーをマネジメントするプラットフォームを提供。
  (情報学とは何か、という問いに答えるヒントを与えてくれるのだろうか? オントロジーを構築するということは情報学分野の体系化が必要ということになるのでは。それにどうやって取り組むのか?)
 オンライン学術用語集(古い):学会&文科省だからいじりづらいw
 学術研究データベース・レポジトリ
現状:オントロジーはまだまだ。
 研究分野可視化システム(仮)
 KAKENの統合分類を要チェック!→毎年、文科省が変えるw
  オントロジーは変わらない? いや、ありえない。どうしよう!!!
総合学術事典への期待
 多様なオントロジーの提供(サービス面)
 研究者のオントロジー構築への参加(活動面) このループのきっかけになること!

講演メモ:「大学の知を教育現場が使える形で発信する試み」三宅 なほみ(東大)

総合学術辞典フォーラムより。
まとめ:「総合学術辞典フォーラム」参加報告 - 反言子

「大学の知を教育現場が使える形で発信する試み」三宅 なほみ(東大)

すごくおもしろかった!

技術的には情報横断が可能になっている。すごい量。
うまく使う仕組みをつくってやってみながらビジョンにつなげていけたらいいね!
現状:辞典
 初心者は認知科学辞典をどう使う?
  資料からキーワードを構成して書いてあって欲しいことを予想する、実際に調べてみて評価・再検索、感想を書く→見つからないが66.9% e.g.基本的すぎる「こころ」「自然言語」「認知科学」、名詞でないもの、教員のキーワード
  「自然言語」→自然を接頭辞にした10項目に驚き、見つかっても単語に違和感
 原因:検索スキル・基礎知識に欠ける→本当にそう?
  ゼミを決める参考など、結果の使い方がわからない。どうやって使うか!
現状2:学術俯瞰講座「東大俯瞰講義」
 高校生向きの講座:情報をいかに利用するかがビジネスチャンスになる?
 学問領域同士の有機的なつながりをはやいうちに見せる。
  ひとつの俯瞰講義はヘリコプター、全部で人工衛星
 自分の立ち位置と俯瞰講義の切り口との相対関係をつかめ→とにかくとれ
 全体像のなかからちっちゃいことに取り組んでいく知識観。難しい!
 知識とはどのように学んでいくべきものか、なんのために?
 難しさ:期待される学習モデルの違い→自分なりの知識体系をつくること
  しかし、このモデル(俯瞰方法)の獲得そのものを支援していない
中間点
 e.g.生命科学オントロジー表現を使う
  教科書と先端論文をオントロジーでつなげて可視化する。
  専門家にやってもらう。論文とオントロジーの関係づけを。
  生命科学はお金使ってオントロジーつくってるの? バイオ関係のDBかな。
 問題点
  オントロジー構造そのものを獲得できるのか?
  俯瞰や統合はオントロジー表現でどう支援できるか?
   本人が自分で知識をつくっていく、という前提。新しい問題
これから
 個の知識構成を支援する
 「ひとはいかに賢くなるか」についての認知科学をベースにしたい
  たくさんのひとでいろいろやると自分も賢くなるw
 概念変化+社会的構成主義 などw
 古くて新しい学習モデル
  個人でできる観察 観察・質点パタン記述
  他人の意見も統合俯瞰した理論
   説明用モデル:他人のいうことも納得できる説明
   形式理論原則:科学的と認められる説明
 知識の個人による自力構造化のために支援
  素材:わかっていることの言語化・おもしろそうなものの提供
   ツール:自分の知っていることの構造化・言語化の支援→概念地図作成支援
  つなぎ方:例示する・つなぎ方そのものの獲得も支援する(学習研究者もわからん)
   講義をどのようにするかという先生がたにとっては極めて身近な問題! 講義の順番をてきとうに決めて、つなぎ方の例示すらしていない。学習の研究は、大学教育のあり方に対する問いかけも含んでいるんだなあ……。
   仮説実験授業(事実のつながりが理論化・仮説づくりをみちびくことを体験的に知らしめる)、カンブリアンゲーム(関連づけを増やす進化)、ジグソー法による協調的学習(説明しあって理解を補い合う)
   e.g.空気と水:11の実験(予測・討論・再予測・コメント)
    コップを逆さにして水にぶち込むとどうなる? 半分水入ったり……。
    す、すげー! 水の入ったやつをひっぱりあげると、とか、おもしろい!
    ひとつ穴の空いた缶から液体はこぼれるか……。
    討論をすると当たってる……! でも、ひっくり返った! 討論が盛り上がる!
   なにが起きているのか
    こどもは勝手な意見をつくる→科学ってそういうものw
    当たってても間違っててもおもしろい。社会構成主義的な知識を得ていく
 大学が発信すべき知
  素材・つなぎ方・つなぐための仕掛け
  情報を得るWebから、自分なりの納得をつくって比較し、納得の度合いを深化させていくWebへ

講演メモ:「総合学術辞典フォーラム」総合討論

総合学術辞典フォーラムより。
まとめ:「総合学術辞典フォーラム」参加報告 - 反言子

総合討論

まず橋田先生からサービス工学をネタにした話題提起。

橋田、提題:サービス工学から学問2.0
科学:仮説・検証サイクル、難しいことをやるんじゃない。サイクルを回して修正していく。ポパー:進化システム。
サービスの粒度:提供者→サービス→受容者→効果→観測者→要請→設計者→提案→提供者のサイクルだが、その中のサービスにもまたサイクル(相互作用)がある。→課題解決でなく課題提案型の研究?
サービス工学:C0,1,2の多重なサイクル
オントロジーの多重性? 辞典(オントロジー)をつくる、(メタ)オントロジーをつくる

地図があると学習が促進するか。

原島「辞典はボトムアップ。項目ありきでメタに向かっていく。俯瞰講義は逆。はじめに全体がある。科学は細かいところから法則をみつけていく。しかし学習では現象を見せるところからはいっていいのか、それとも地図を見せるべきか。」
三宅「地図見せたらうまくいくか→はじめはいいといわれたが、あんまりうまくいかないw 地図だということがわからない、おもしろさがわからない。(原島:前段階に何が必要なのか?)地図をもとにどこかにいくための方法がわからない。地図を見せてうまくいった例がある。武田先生の講演などがそうだった。(武田:苦笑) 地図の意味をうまく見せられれば成功する。
原島輪講。大変だったから文献の1ページ目だけ取ったよ。分類したよ。みつけたいテーマが見つかるぜ。全部読んだら何も話からなかった。」
武田「オントロジーはまさに分類。人間は分類する能力をもっている。他人の分類はわからんけどね。ひととはギャップがあるが、マッチングをいかにするか。オントロジーの難しいところ。分類を強要する。理解のために分類をもってしまうこともある。分類をトップダウンに受け入れるのはむり。かといって、オントロジーはひとつの型にはなる。」

オントロジーの構造のあり方、変化へ対応について。

原島「分野が廃れたのがおもしろい。なぜ? これから研究をするのだから。学問の時間的なシナリオ。そういう話がオントロジーにどう入るのか? 知は断片的なつながりだけじゃなくてシナリオがある。」
橋田「明確に捉えられないものがある。辞典をつくるなかで構造を作り直すことはあるだろう。どういうふうにつくりなおすか……」
原島オントロジーをつくりなおすことになる。時間を含むものはない?」
橋田「派生はとれる。より一般には、はみ出してしまうものがあるから、オントロジーの変化をみるしかない」
高野「僕は辞典はそんなに。学問のプレイヤになるのはそのひとの方法論やシナリオや用語のセイドみたいなものをトレーニングで自分のものにして、そのロジックで議論できる、分野の相場を獲得することが大事。学会が同じ話題を繰り返せるのは、のりがちがう(?)。辞典がおもしろいのは、分野が違うと(e.g.化学と物理学)同じ言葉でも精度が違う。(僕は数学の落ちこぼれだが)数学は言葉の精度が一番厳密で、それに触れられてよかった。定理をいろいろ示すとか、別の定理との関わりをみつけるとか。いったいきたりを繰り返すことでわかる。これを何回か経験した。オントロジーみたいなべたなつながりは幻想。作法を学びながら考えるのが大事」
橋田「たしかに静的な構造だけではわからない。その手がかりを残さないと。言葉の精度の違いって簡単にわかる?」
高野「いろんなメディアをつないだときに知識が動き出す感じがする。どういう+αがあれば論文になって、ならないか。それがわかる。」
三宅「人文科学は同じ研究をやっていても名前が変わると云々(?)。オントロジーは自分と外部のあいだをつなぐもの。conseptualy dependentな説明ができれば。そういう表現はどこかにほしい。そういう表現を求めるのよね?」
武田「逆で、情報システムのオントロジーは、最小限のコミットにしておく。中身はわからない。深い理解はオントロジーには期待できない。哲学ではそうだけど。(三宅:ミニマムというのは本質ということでは)大きな期待はかけれない。どうやったらわかり合えるかを学ぶのが学会なのかな。その分野での理解の仕方を学ぶこと。」
原島「一般化すると、システムになる部分と、システムをどう使うかというリテラシーのバランスをどうするのか。場合によっては使うひとの能力を下げてしまうかもしれない。視野が狭くなる、考えなくなる。発見したものをどう使うか。システムはミニマムであるべきかも。どこまでを人間に任せ、何をシステムがサポートするか。情報量が増えるからシステムのサポートは必須だが、全部やるのが目的なの? リテラシーまでいっしょに議論しないと」
橋田「使いやすいツールは、凝ったものよりも、エクセルみたいなシンプルなものがいい。そろばんと電卓。そろばんは暗算もうまくなる。電卓は……(原島:電卓もすごいひとがいる)道具にもちからを引き出すものとそうでないものがある。オントロジーはそろばんのようなものになるべき。そろばんを使っていかにリテラシーを高めるか。」
会場「心配しているのは、オントロジーのフォーマットをきれいにつくって、変えたくなったらどうするの? イメージがわからない」
橋田「でかくなると簡単には変えられない。オントロジーの拡大はパラダイムシフトみたいなもの。以前のものを捨てて新しいものに乗り換える。レガシーシステムをつくりかえるときは、新しいものを平行動作させる。オントロジーの変革も、似たようなことをやらないと。方法論はまだない。」
武田「KAKENでは人手でリンクづけしている。大規模な変化はないので。本質的な解決ではないが」

オントロジーは知識や理解の本質に関わるのか。

会場「本当のものを知りたい。オントロジーは妥当さを構成する手がかりになるのか? ゲーデル不完全性定理みたいな。本当の知識ってどうやって構成するのか、それにアプローチする方法は? わかんないものを追っかけていって、どうやってわかっていったのか。オントロジーで迫っていけるか」
橋田「理解の仕方をオントロジーを使って社会的に共有できるか、ということ?」
三宅「ない、かも。ひとの知識のうえしか理解できないんじゃ。わかってくる過程をふみいれないと(?)わかってこない。」
原島「辞典にほころびをつくっておいてほしい。ほころびは気にある。きれいにしようって考える。自分自身を否定したっていい。」
橋田「完璧なものは自分にはむりw 科学は仮説にすぎない。そういう覚悟のうえでの研究、そこに立ち戻ろう。辞典だって仮説。オントロジーにもベストはない。その前提でみんなサイクルを回し続けられたら。」
会場「新しい辞典・オントロジーの姿。ほころびをひきずりながらいってくれれば。地図はあくまで地図で、地理じゃない。」
会場「わかってないことを理解できるのが大きい」

知識や学問の発展のあり方について。

会場(岡本)「ヤフーの検索エンジンづくりの話。ヤフー百科事典を始めて、業者と話すとポリシーに差があって、執筆者を公開するかしないか。執筆者が偏っているところがある。個人的な説もある。それがよいところかも。Wikipediaがよくできているのは、知識がどんなプロセスを経てつくられるかがわかる。今後の辞典で配慮されるべき。もうひとつ、ARG。日本語の学術リソースはすべてみている。日本のWebアカデミックコンテンツが理想から遠いのは、つくっているひとの顔が見えにくい。いろんなひとを介して通説が出てくる。それが日本の学術情報発信からはみえない、成果だけが強調される。Webなら向いているのにね。」
橋田「うまいこといっちゃったw 辞典じゃないほうがいいかもね。本当のことが書いてあるんじゃなくて、仮説がいっぱい書いてある。いきさつや対立がわかれば。仮説を考えたことをアピールしたほうが価値があるかも。その変化も。」
原島「進化させるとき、改訂のプロセスが問題。書き換えるとき、まえに書いたひとに了解をとらないといけないかな? 通信学会では、ログをとってどんどん書き換え。それでもいやがるひとがいる。書き換えと著作権の関係。」
橋田「情報処理学会でも締め切り。編纂会議やるよ。書き換えを前提で書いてもらうつもり。」
原島「外部リンク自由。最先端技術は外す。知識ベースだけは残す、変わらない。」
会場「サイエンスゼロという番組で、アポトーシスの話題。細胞の死と人間の死を結びつけるのはいかがか。オントロジーは通常科学のためのもので、アナロジーを阻害するのでは。ほころびをつくるのは対立するのでは。」
橋田「型にはめることは創造性にどう影響するのか? シュハリみたいに、まず型。基本的には正しいと思う。」
高野「いろんな学会を巻き込もうとしたとき、議論の精度、具体例のモデルが違うものが、ごっちゃになる。それがみえるのを期待している。それがアナロジー、新しい発想になる。ひとつの問題を別の見方から俯瞰的なビジョンが得られる。アポトーシスを社会とかにたとえて、議論する。」
武田「オントロジーはミニマムコミットメント。しかしWebだとまちがった解釈→いいイマジネーションを生むかも、とポジティブには考えられる。専門知識にほかの知識が入ってくる。えせ科学に利用されることも起こりうる。Googleで論文が探せるのも、アブユースを生む。問題として、学会として考えておくべき」
三宅「オントロジーがわからないかも。辞典、the ontologyはあったらいいなあという仮想で、アナロジーは世の中にいっぱいある。オントロジーが知識を支配するのは、いまはまだ。」
原島「ネットに載せる良い点は、ほかのひとが勝手に利用できる。使い方を決めるのでなく、利用するひとがつくりかえる可能性もある。これからつくるのは素材、そこから新しい辞典ができあがってもいい、できるほうがいい。橋田信者のひとは橋田辞典にいくw 自分の編纂辞典をつくれっていう課題を出したっていい。そういうことが可能になればいい。学習という観点からはこれがいい、研究という観点からはこれがいい、みたいなものが出れば
橋田「学問2.0のユースケースが出たのでは。ありがとうございました」

「総合学術辞典フォーラム」参加報告

5月9日総合学術辞典フォーラムに参加してきました。東大のこぎれいな建物の地下でやったのですが、ケータイもPHSもつながらず、会場の無線LANも調子が悪くて阿鼻叫喚(笑)でした。
武田先生と三宅先生を初めて拝見しました。名前を存じあげている研究者を生で見るとなんだかうれしい。岡本真さん(@arg)にもごあいさつできました。

ノート

たいへん雑多ですが、どなたかの参考になるかもしれないので個人的なメモを公開しておきます。内容には聞き間違いや誤解が含まれていることをご了承ください。とくに議論のメモは、実際の発言者の口調とはかけ離れています。
以下の記事はhttp://d.hatena.ne.jp/kiwofusi/20090527ですべて表示されます。

  1. 「学は何処より来たりて何処へ向かうのか?」原島 博(元東大)
  2. 「オントロジーに基づく学術辞典の設計」橋田 浩一(産総研)
  3. 「百科事典・専門辞典を基点とする情報アクセス」高野 明彦(NII)
  4. 「Web時代の学術情報流通の方向性を考える」武田 英明(NII)
  5. 「大学の知を教育現場が使える形で発信する試み」三宅 なほみ(東大)
  6. 総合討論

感想:誰のための学問?

個々の講演・サービス・議論はとてもおもしろかった。
しかし、フォーラムの趣旨を振り返ると満足しきれないところがある。どうやって辞典をつくるか、については十分な議論がおこわれた一方、辞典のありがたみとか、問題解決における辞典の位置づけについて疑問が残った。

総合学術辞典フォーラムのお知らせ 地球環境問題や少子高齢化など、ますます困難になりつつある社会的課題を解決するためには、従来を上回る規模での科学的知識の体系化とその社会的共有が必須と思われます。それには、研究領域のタコツボ化を防ぎ領域間の融合を進めつつ、一般市民が学問的・体系的知識の共有・共創に参画できるようにする必要があるのではないでしょうか。

新しい社会的問題に対して分野の垣根を越えたアプローチが求められるのは確かだ。そのときにある程度体系化された知識はきっと有用だ。かといって、知識を体系化するだけで異分野の研究がコラボレーションできるとも思えない。研究者や成果を結びつける仕組みがあったほうがいいし、知識の体系はあくまでそのベースだ。新しい問題を解決するための方法と、そこでの知識の体系や辞典の役割についても考えたい。
それはスケールのでっかい話としてさておき、もうひとつ、学問における一般市民の位置づけについても踏み込んでもらえるとうれしかった。そう思うのは、僕が未熟な学生であり、ここに集まった研究者のみなさんに比べて、よほど一般市民に近い立場にあるからだ。学生や社会人にとって本当にありがてえ辞典ってどんなのだろう。専門知識に欠ける我々があえて学問に参画しなければいけない理由はなんだろう。
三宅先生が大学生に認知科学事典を使ってもらう実験をおこなっていたのが興味深かった。学生とか一般市民が辞典をうまく使うのはきっと難しい。この実験は、うまく使ってもらえる辞典でなければ価値がない、という問題を提起しているようにも感じられた。学際的なアプローチの基盤になる辞典をつくるなら、専門家だけにしか使いこなせない辞典ではいけない。
辞典は知識を体系化するという目的をもつ。それはすばらしいことだと思う。一方で、もっと現実的な意味での目的、すなわち辞典を使いこなして役立てるシナリオみたいなものを、これから検討していく必要があるのではないかと思った。